アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎とは、浸潤性の湿疹が良くなったり悪くなったりを慢性的に繰り返し、かゆみを伴う皮膚の症状です。
主にアトピー性素因と言われる体質を持つ方に多く発症し、皮膚のバリア機能の崩壊、免疫的要因、さまざまな皮膚への刺激によって悪化しやすい特徴があります。
悪化因子として、食べ物アレルギー、ダニ、ハウスダスト、花粉、汗、乾燥、心理的ストレスも影響すると報告されています。
アトピー性皮膚炎の症状
アトピー性皮膚炎は皮膚の病気としてきちんと定義づけられています。
日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎の診断基準では、
- かゆみ
- 特徴的な左右対称性の湿疹(乳児では顔、小児なら関節、成人で上半身)
- 繰り返す経過(乳児なら2ヶ月以上、小児以降では6ヶ月以上)
これらの特徴を基準に診断されます。
肌の乾燥
アトピー性皮膚炎では皮脂が不足することによって、皮膚表面の角質層に十分な水分を溜め込むことができません。
そのためカサカサして乾燥しがちな皮膚となってしまい、フケが出ているような粉吹き状態も乾燥が原因で生じてきます。
湿疹
アトピー性皮膚炎が進行していくと、「紅斑」と言って赤みを帯びた状態になったり、「丘疹」と言ってぶつっと腫れたような湿疹が出てきたりします。
これらの湿疹は主に左右対称に現れることが特徴的です。
痂疲(かさぶた)
痂皮とはかさぶたのことです。
かゆみを伴うために、無意識にかきむしることで皮膚に傷ができ、かさぶたとなってしまいます。
アトピー性皮膚炎の原因
アトピー性皮膚炎は、成長段階によって原因や症状が異なります。
子どものアトピー性皮膚炎の原因
子供の肌はまだ機能が未熟なこともあり、幼少期に発症していたとしても成長とともに徐々に改善していくことも多くあります。
統計では生後4ヶ月で発症した子供で、1歳6ヶ月までに改善した子供は全体のおよそ70%に上るデータも報告されています。
幼少期のアトピーの原因としては、いわゆる「アトピー素因」が考えられています。
アトピー素因とは、既往歴、家族歴として、
- 気管支喘息
- アレルギー性鼻炎/結膜炎
- アトピー性皮膚炎
がある方はアトピー性皮膚炎になりやすいことがわかっています。
またアレルギー体質の方も該当します。
大人のアトピー性皮膚炎の原因
大人になってから初めて、アトピー性皮膚炎の症状が出る方もいます。
社会人になった時のストレス、妊娠出産などの環境変化、日々の生活習慣の乱れ、ホルモンバランスの変化などが影響していると考えられています。
働いている大人であれば慢性的にストレスにさらされていたり、時間がなくて継続的な通院治療が行えなかったりする可能性があります。
そのため、症状の寛解と増悪を繰り返しやすく、最終的に難治性の皮膚炎となっているケースも多くあります。
検査方法
アトピー性皮膚炎は、血液検査で簡単に調べることが可能です。
考えられるアレルゲンに対してどれくらい反応しやすいかを調べる、特異的IgE抗体検査を行うことで、ダニやカビ、ハウスダストなど、どのような悪化因子が影響しているか判別します。
これに加えて一般的な血液検査も行い、アトピー性皮膚炎とは別の皮膚症状との鑑別も行う場合があります。
治療方法
アトピー性皮膚炎は、その時の症状に応じたスキンケアや外用・内服治療を行うことで、良い状態を保つことを目指す病気です。
特にお子様の治療では、良い状態を保つことで薬が必要なくなることも多いため、症状が落ち着くまでは定期的な通院をおすすめしています。
スキンケア(肌の清潔・保湿)
問診の内容や採血結果から関連が疑われる悪化因子の除去に努め、日常的に保湿剤を用いてスキンケアを行います。
アトピー性皮膚炎の方の皮膚は、ほとんどの場合、乾燥しています。
この乾燥状態を脱することが、アトピー性皮膚炎治療の第一歩です。
皮膚が乾燥していることでバリア機能が低下し、悪化因子のアレルゲンや病原菌の侵入を容易にし、よりかゆみを感じやすくなる負のサイクルができてしまいます。
乾燥・バリア機能の低下を防ぎ、炎症を予防するためにも適切な保湿剤・保護薬を用いたスキンケアを行いましょう。
保湿は1回の量を増やすよりも、複数回に分けて保湿した方が、効果が高まることが報告されています。お風呂上がりの1回だけではなく、朝夕で1日2回の保湿を行いましょう。
薬物療法
アトピー性皮膚炎の治療では、皮膚の炎症やかゆみに対して適切な外用薬を、正しい方法で塗布していくことが必須です。
ステロイド外用薬
ステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎治療のための基本の薬剤です。
ステロイドに拒否反応を示す方も少なくはありませんが、適切な部位に、適切な強さのステロイド外用薬を十分な量塗布することが、アトピー性皮膚炎の改善には有効です。
基本的にステロイド外用薬では、全身性の副作用は生じません。
局所的に多毛や皮膚感染症が起こることもありますが、外用薬の塗布を中止することで回復します。
ステロイド外用薬はその強さによって段階が決められています。
顔や首などの柔らかい部分は皮膚吸収が良いため、弱めの薬を少量、背中や胸など皮膚の厚い部分にはやや強めの薬を塗布します。
タクロリムス軟膏
タクロリムス軟膏はアトピー性皮膚炎専用の塗薬で、外用ステロイドとは異なる機序で作用します。
特に顔面・頸部に対して安全性が認められており、大人と子供で使う濃度を分けることでさらに安全性に考慮されています(大人:0.1% 子供:0.03%)。
注意点としてはびらんや潰瘍面には使用できず、使い始めにほてりや刺激感を感じることがあります。
デルゴシチニブ軟膏(JAK阻害剤)、
ジファミラスト軟膏(PDE4阻害剤)
タクロリムスでは刺激(ほてり・ヒリヒリ)が強く治療に向かなかった方でも使用できます。副作用が少ないため、炎症などの症状が強くない場合は有用です。
内服薬・紫外線治療
抗アレルギー薬の内服薬を中心に使用しながら、それでも症状を抑えられない場合は、部分的であれば紫外線治療、広範囲であれば免疫抑制薬(シクロスポリン)の内服や生物学的製剤(デュピルマブやバリシチニブ、ウパダシチニブ)を組み合わせて治療していきます。
※当院では、ステロイドを全く使わない治療、いわゆる「脱ステロイド療法」は行っておりません。
プロアクティブ療法、リアクティブ療法
アトピー性皮膚炎の治療では、ステロイド外用薬などで炎症を抑える治療を行い、見た目にはほとんど異常がないように見えても、潜在的な皮膚の炎症が奥で残っている状態が続いています。見た目には症状がないため、この段階で治療をやめてしまう方が多いのですが、この状態で治療をやめてしまうと、すぐに皮膚症状が再燃してしまいます。
プロアクティブ療法とは、見た目の皮膚症状が良くなった後もステロイド外用薬などの抗炎症外用薬(タクロリムス軟膏、デルゴシチニブ軟膏、ジファミラスト軟膏も含む)の使用を中断せず、しばらくの期間、外用治療を継続する方法です。そうすることで、皮膚炎やかゆみが改善した状態が長期間維持でき、再発・再燃・重症化する頻度を抑えることが出来ます。
反対に、かゆい時だけ薬を塗る、かゆみがなくなったら薬をやめる、というのはリアクティブ療法と言います。軽症のアトピー性皮膚炎では、リアクティブ療法でもコントロール出来る場合が多いです。
ご自宅でのセルフケア方法
アトピー性皮膚炎は、ご自宅でのケアも非常に重要となります。
「毎日の継続的なスキンケア」と「必要な量の薬をしっかり塗る」ことを、しっかり続けるようにしましょう。
一旦良くなったからといってすぐ薬を止めたり、スキンケアをおざなりにしたりしていると、症状がいつまでも安定せず、かえって治りにくくなる場合があります。
薬効が十分得られていないと感じる場合には、別の薬剤を提案する場合がありますので、受診の際にご相談ください。
ステロイド外用薬の減薬については、症状が十分治まって安定してから徐々に行います。
皮膚の回復段階は、外見では判別がつきにくいので、自己判断で解決しようとせず、必ず医師と相談の上、調節していきましょう。
1入浴時は優しく
入浴時の体の洗い方も重要です。
石鹸やシャンプーをしっかりと泡立てて、手で撫でるように優しく洗ってください。
タオルや爪でゴシゴシ洗うと皮膚に傷がつき、乾燥や湿疹につながる恐れがあります。
最後は流し残しがないようにぬるめのお湯で十分に洗い流しましょう。
2保湿剤の量と塗り方
チューブの場合、人差し指の先端から第一関節までの量で、大体大人の手のひら2枚分の面積を塗ることができます。
3順番は保湿剤→ステロイド外用薬
どちらが先と決まっているわけではありませんが、原則は先に保湿剤を塗ってからステロイド外用薬を上から重ねるようにしましょう。
炎症を抑えるために、湿疹部にはきちんとステロイド外用薬を塗るようにしましょう。
2種類の軟膏をお子様に塗るのは大変かもしれませんが、2種類を混合した薬も処方可能ですので、診察時にご相談ください。