「手術のあとの傷跡が気になる」「子供が転んで作った傷が茶色くなってしまった」「ニキビ跡が凹凸になって残っている」…。
皮膚科の外来を訪れる患者様の中で、傷跡に関するお悩みは絶えません。傷口が塞がった(上皮化した)瞬間はケアの「終わり」ではなく、実は美しい肌を取り戻すための「始まり」です。今回は、千里皮膚科が推奨する、医学的根拠に基づいた傷跡ケアのすべてを徹底解説します。
なぜ「傷跡」は残るのか? 知っておきたい皮膚の仕組み
私たちの皮膚は、外からの刺激を防ぐバリア機能を持っています。傷ができると、体は急いでその穴を埋めようと「炎症」「増殖」「成熟」というステップを踏んで修復を行います。
・炎症期(数日間):傷口を掃除し、細菌と戦う時期。赤みや腫れが出ます。
・増殖期(数週間):コラーゲンが大量に作られ、傷を塞ぐ「肉芽(にくげ)」が形成される時期。
・成熟期(数ヶ月〜数年):作られたコラーゲンが整列し、徐々に白く平らな「傷跡」へと落ち着いていく時期。
傷跡が目立つ原因の多くは、この「増殖期」から「成熟期」にかけてのケア不足**にあります。過剰な刺激が加わると、体は「もっと補強しなきゃ!」と勘違いしてコラーゲンを作りすぎてしまい、赤く盛り上がった「肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)」や「ケロイド」になってしまうのです。
傷跡ケアの「3大鉄則」:安静・保湿・遮光
傷跡をきれいに治すための基本は、非常にシンプルですが奥が深いです。
安静(物理的固定)
傷跡は「引っ張られる刺激」が最も苦手です。特に関節周りや胸元などは、動くたびに傷が左右に引っ張られ、幅が広がりやすくなります。これを防ぐのがサージカルテープによる固定です。
保湿(バリア機能の補完)
傷跡の表面は、通常の皮膚に比べて水分が逃げやすく、非常に乾燥しています。乾燥はかゆみを引き起こし、掻き壊すことで炎症が再燃するという悪循環を招きます。
遮光(紫外線対策)
傷跡の組織は未熟なため、メラニン色素が沈着しやすい状態です。ここで紫外線を浴びると、数年単位で消えない「茶色いシミのような傷跡(炎症後色素沈着)」として定着してしまいます。
実践! 傷跡ケアの必須アイテムと使い方
当院でもお問い合わせの多い、具体的なケアアイテムについて深掘りします。
サージカルテープ(マイクロポアテープ等)
使い方:傷跡に対して垂直に、少し皮膚を寄せるように貼ります。
- ポイント:毎日貼り替える必要はありません。3〜5日に一度、剥がれてきたら交換する程度でOKです。頻繁な貼り替えは、逆に皮膚の角質を傷め、かぶれの原因になります。
インプロスカースティック(シリコンスティック)
最近、特に注目されているのがシリコンによる密閉療法です。そしてインプロスカースティックは手術の傷跡や、火傷(やけど)・怪我の跡をきれいに治すための「塗るシリコンジェル」です。 傷跡ケアにおいて重要な「保湿」「保護(摩擦を防ぐ)」に加え、色素沈着(傷跡が茶色く残る)の最大に原因である紫外線を防ぐ「遮光効果(SPF50)」をこれ1本で同時に行えます。 手を汚さずに片手でサッと塗れるスティックタイプのため、こまめな塗り直しが必要な日中のケアにも最適です。
特徴:医療用シリコンが傷跡を薄い膜で覆い、適度な圧迫と保湿を行いながら、酸素を通すという特殊な構造をしています。
インプロスカースティックの利点:従来のシリコンシートは「剥がれやすい」「蒸れる」「見た目が目立つ」という欠点がありましたが、スティックタイプは塗るだけ。乾けばベタつかず、上からメイクや日焼け止めを重ねられるのが最大のメリットです。
- 推奨部位:顔、首元、手指など、テープが目立って貼れない場所や、動きが多い場所に非常に有効です。
ヘパリン類似物質(保湿剤)
血行を促進し、肌の水分保持能力を高めるお薬です。
効果: 傷跡のツッパリ感を軽減し、組織を柔らかくする手助けをします。ただし、出血している傷口には使えないため、必ず「傷が完全に塞がってから」使用を開始します。
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特殊な傷跡へのアプローチ:ケロイドと肥厚性瘢痕
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セルフケアだけでは改善が難しい場合もあります。
肥厚性瘢痕
傷の範囲内に留まる赤い盛り上がり。時間の経過とともに平らになることもありますが、ケアを怠ると数年残ります。
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ケロイド
- 傷の範囲を超えて、周囲の正常な皮膚にまで赤みや盛り上がりが広がっていくもの。体質が大きく関与し、痛みやかゆみを伴うことが多いです。
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これらに対しては、皮膚科や形成外科での専門的な治療が必要です。
ステロイド外用・貼付薬
炎症を抑え、盛り上がりを平ら、かつ柔らかくします。ステロイド外用剤はstrongestやvery strongクラスのものを1日2回、ステロイド貼付剤は1日1回患部に貼付します。
最低3ヶ月〜半年ほど続ける必要があります。
ステロイド局部注射
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盛り上がりが強い場合に直接患部にステロイドを打ち、組織を沈静化させます。
平坦化するまで1,2ヶ月に1回の頻度で何度か注射します。
内服薬(トラニラスト)
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アレルギー反応を抑える薬ですが、コラーゲンの過剰な産生を抑制する効果があり、ケロイド治療に広く用いられます。
症状改善には数ヶ月以上の長期服用が必要となるケースが多いです。
日常生活で気をつけるべきポイント
傷跡ケアは24時間365日の積み重ねです。
・入浴: 傷跡をゴシゴシ洗うのは厳禁です。泡で優しく包むように洗い、水分を拭き取るときもタオルで押さえるようにしてください。
・衣服: 傷跡に下着のゴムやワイヤーが直接当たるのは避けてください。摩擦は肥厚性瘢痕の大きな原因になります。
・食事: 直接的な影響は少ないですが、肌のターンオーバーを助けるビタミンCや、組織の材料となるタンパク質を意識して摂取しましょう。
傷跡ケアに関するよくある質問(Q&A)

Q. いつまでケアを続ければいいですか?
A. 最低でも3ヶ月、できれば半年〜1年が目安です。傷跡の赤みが完全に消え、周囲の肌の色と同じ「白っぽく平らな状態」になるまでがケアの期間だと考えてください。
Q. 古い傷跡にもインプロスカースティックは効きますか?
- A. 効果がないわけではありませんが、やはり「赤みがある時期」に使用するのが最も効果的です。数年以上経った白い傷跡については、レーザー治療などの検討が必要になる場合があります。
Q. 子供がテープを嫌がります。どうすればいいですか?
A. お子様の場合、テープを剥がす際の痛みがトラウマになりやすいです。剥離剤(リムーバー)を使うか、インプロスカースティックのような「塗るタイプ」に切り替えるのが現実的で継続しやすい方法です。
終わりに:傷跡を「勲章」にするために
傷跡は、体が一生懸命にあなたを守ろうとした証でもあります。しかし、それがコンプレックスになってしまうのは悲しいことです。
現代の皮膚科学では、適切な時期に適切なケアを行うことで、傷跡を「ほとんど目立たない状態」まで導くことが可能です。千里皮膚科では、お一人おひとりの傷の深さ、部位、体質に合わせた最適なケアプランをご提案いたします。
「この傷跡、なんとかなるかな?」と思ったら、諦める前にぜひ一度千里皮膚科にご相談ください。一緒に、健やかで美しい肌を取り戻していきましょう。
監修医師紹介
院長
花岡 佑真
経歴
- 2005年智辯学園和歌山中学校・高等学校 卒業
- 2011年大阪大学医学部 卒業、関西労災病院 初期研修医
- 2013年関西労災病院 皮膚科
- 2015年大阪みなと中央病院 形成外科
- 2016年大阪大学大学院医学系研究科皮膚科 特任研究員(形成外科診療にも従事)大阪国際がんセンター 腫瘍皮膚科
- 2018年大阪大学大学院医学系研究科皮膚科 特任助教
- 2020年大阪大学大学院医学系研究科皮膚科 病棟医長
- 2021年10月千里皮膚科 開院
資格・所属学会
- 日本専門医機構認定皮膚科専門医
- 難病指定医
- 日本皮膚科学会所属
- 日本形成外科学会所属
- 日本皮膚外科学会所属
- 日本皮膚悪性腫瘍学会所属
- 日本美容皮膚科学会所属






